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アイリス

奥村遊機

発表時期
1989年
1月
種別 普通機
玉貸機
現金機
賞球数オール13

昭和62年夏に西陣が発表した『アイリス13』の役物と同じものを使用して製作された普通機。

チューリップの個数やゲージ構成などは異なる。天横、もしくはその下の役物入賞口から役物内に玉が入ると、内部で中央かその下のいずれかに入る。中央に入った場合は5つのチューリップが全開になる。その下の場合は盤面下部中央のチューリップが開放する。また、左(右)袖チューリップに入ると左(右)落としの位置にあるチューリップが開放。

200円で3日連続打ち止めに

 

6年間、同じホールに毎日のように通っていた際の交通手段は原付だった。最初はパッソル、2代目はタクト。家の近くに長くて急な坂があり、なおかつ真ん中あたりに歩行者用の押しボタン式信号があった。これが赤になってしまうとパッソルだと発進するのがひと苦労だったので、すぐにタクトに乗り換えた。

 

ホールには裏口に縦に長い駐輪場があり、10時5分前にいつもの場所に原付を止めて開店を待つ。そんな無意識な行動を取っていると、朝の挨拶や軽い会話を交わす程度の運ちゃんがドアに張り付いていた。自称トラックの運転手である。話しかけてくる。

「何を打つんだ?」。

「昨日、止めた(打ち止めにした)7番台でも打とうかと」。

「それ、俺が行こうと思ってる」。

 

ん? 喧嘩を売っているのか?

もちろん、誰が何の台を打とうが構わない。しかし、同じホールで長くトラブルなく打つためにはそれなりの「やり方」がある。それを暗黙の了解と呼ぶかどうかはさておき、少なくとも7番台を昨日打ち止めにしたのは俺だ。運ちゃんではない。確かに彼はパチプロと呼んでもいいくらいの「出席率」を誇っているが、ケツ狙いが多いから、元々好きではなかった。

 

このホールには大阪弁を話す普通機が得意な2人組のパチプロがいる。毎日、朝からきている。ほとんど話したことはないけれど、少なくとも朝一から彼らがいる普通機コーナーには行かない。最低限の礼儀はわきまえているつもりだ。

 

普通機の7番台は大阪弁の2人がめったに来ない少し離れたシマにある。なおかつこれを見つけたのは土建屋の社長の奥さんだ。『スーパーコンビ』が大好きな土建屋の社長と異なり、一緒に来店する奥さんのほうは色々な機種を打つ。なぜわかるかというと、打ち止めのアナウンスがあった際には打ち止めにした人とその台の釘調整を見に行くのだが、全くマークしていない台が打ち止めになった際に、夕方近くに来店したその奥さんが打っていたことが何度もあったのだ。

 

これは不思議だった。前日に打ち止めにした台や、クセの良い台を中心に台選びをしている俺はあえてチャレンジするようなことはない。試し打ちに使う金がもったいない。だからノーマークの台をあえて打つケースは少ない。しかし、奥さんは1ヶ月も打ち止めになっていない権利モノを止めたり、打ち止めまで3時間はかかる普通機を打ったりするのだ。これがちょっとでも怪しい感じがする男だったら100%ゴトではないかと疑うところだ。

 

ストロークを変えてみると

 

7番台は奥さんが打ち止めにした後に開放されたが、打ち止めにはならなかった。やっぱり、何らかのゴトで打ち止めにしたのか? まさか? 釘調整は頭の中に映像として残るくらいしっかり覚えたけれど、3時間で3000個出るようには思えなかった。

しかし、前日は展開負けというかツイていないというか、早々に優秀台からあぶれてしまった。普通機なら試し打ちをしても被害額は大きくならないだろうから打ってみるか。そう思って7番台に座った。

 

普通機の基本ストロークはぶっ込み狙いだ。天釘の一番左の釘と山釘の一番上の釘の間に玉を流す。そこから微妙にストロークを調整し、役物に入りやすいコースを見つける。あとはいかに安定させたストロークを維持するか、だけだ。

ぶっ込み狙いで玉を打つ。天穴にはそこそこ入るけれど、打ち止めにできそうなほどではない。オール10、オール13、オール15と普通機は賞球数に違いがあって、それぞれの賞球数に応じて「どれくらいの頻度で各入賞口に入れば(というよりも、払い出しの頻度)打ち止めにできるか」の感覚はつかんでいるつもりだ。それが足りないのだ。

 

穴があくほど釘を見ると、天釘の左から2本目の釘が少し下がっているようにも見える。気のせいか。そこで天釘左から1本目と2本目の間に玉が通るようにストロークを変えてみた。すると、天穴への入賞率が上がった。そして、3時間以上かかったけれど、見事に打ち止めにすることができたのだ。

 

当然、俺が7番台を打ち止めにしたことは、このホールに通っているパチプロ連中は理解している。大阪弁の2人組は悔しい思いをしているだろうし、何人かのパチプロは俺が打ち止めにするまでの間に様子を見に来ていた。普段は通りもしない普通機が並んだシマの通路を歩く彼らをガラス越しに見て確認しているのだ。その中には運ちゃんもいた。

 

仁義なき戦い

 

他人、特にパチプロが前日に打ち止めにした台を翌日の朝一番に確保する行為は恥ずかしい。仁義に反する。もちろん、法律にも条令にも規則にも全く違反していないけれど、その日の食い扶持を得られるだけで、得することは少ない。それをあろうことか、会話をしたことがある程度とはいえ、運ちゃんは高らかに打つことを宣言したのだ。

 

100キロ以上はあろうかという体躯を小さな背もたれのない椅子に預け、7番台を打っている運ちゃん。もう彼と話すこともないだろう。ただ一つの関心は、彼が7番台を打ち止めにできるかどうかだ。

 

2時間くらい粘っていたのは知っている。いくら使ったかは知らない。

いつものように駅前の立ち食いそば屋で焼肉ライス400円を食べてからホールに戻り、入口のすぐそばにある7人くらい座れるソファに腰かけて一服してから7番台を見に行くと空き台になっている。セブンスターを置いて台を確保する。釘を見る。多分、変わっていない。

 

200円分の玉を上皿に入れる。羽根モノでは300円分の玉を借りることが多いけれど、普通機は200円ずつ借りていく。それもまた魅力の一つだ。

 

慎重にストロークを合わせる。元来、ハンドル固定はしないタイプであり、特に普通機では繊細なストロークが要求されると思っているから、それなりに力を込めてハンドルを握る。

 

前日と同じぶっ込みよりもちょっと強めのストロークは効果てきめんで、200円使っただけでチューリップがあっちこっちで開いて下皿から玉が出てくる。普通機におけるこの瞬間は大好きだ。そして順調に持ち玉が増えていく。500個入る小箱を並べながら打ち続けている間、運ちゃんは3回、背中の通路を通った。絶対にストロークは見られたくなかったから、彼が通路の端に現れたら打つのをやめ、タバコを吸ったりジュースを買いに行ったりした。

そして打ち止め。3000個。

 

この7番台が最高に素敵だったのは、ストロークによって打ち止めにできるかどうかが決まるため、それを知る打ち手は儲かり、打ち止めになっても結果的にホールは儲かる(開放台にしても出ない)可能性が高いから、両者ともに万歳、というところにある。

 

翌日もその翌日も200円で7番台を打ち止めにした。3日連続200円で打ち止めというのは個人的な記録でもある。

当然のことだが、その後、運ちゃんとは一度も話していない。

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