快打洗心
Narrow Baseball
The Big Red Machine
REDS
今でこそメジャーで最高のチームはニューヨーク・ヤンキースとかボストン・レッドソックスみたいに言われるが1970年代にメジャーリーグを席捲したのはシンシナティ・レッズだった。赤いユニフォームを着ていたためThe Big Red Machineと恐れられた。1978年に日米野球でレッズが来日した時にしきりにアピールしていたのがこの言葉である。キャッチコピーはコマーシャルで死ぬほど流れたので、それはもう耳にタコができるほど毎日何度も何度も聞かされていた。Narrow Baseballとは緻密な野球のことで、穴の少ない精密機械のような軍団のプレイをさすが、その礎になったのは正確なデータに基づくID野球だった。
Narrow Baseball⇒ID野球
Narrow Machine⇒IDパチンコ
私が常々IDパチンコと呼称するのは、もとをただせばNarrow Baseballに由来する。来日当時のレッズには
メジャー311勝のトム・シーバーがいた。
メジャー史上最高のキャッチャー、ジョニー・ベンチがいた。
メジャー屈指の長距離砲、ジョージ・フォスターがいた。
ケングリフィ・ジュニアのお父さんケングリフィ・シニアがいた。
そしてこのチームの一番バッターを務めたのがピート・ローズだった。メジャー通算4256の安打数はタイ・カップを抜いて世界ナンバーワン。のちにイチローが日米通算何本とかいうのと比較され大いに話題になった。ピート・ローズ曰く日本の安打数と比較されてはたまらないだったが、彼もまたタイ・カップの4189の記録を塗り替えようかという時には世間から大バッシングを浴びた。「何でお前がタイ・カップと比較されないかんのや」。タイ・カップの通算打率は.366だったのに対してピート・ローズのそれは.303だからである。足し算のロジックでカップの上をいっても割り算のロジックではカップに敵わない。何故お前がカップの記録を塗り替えるのだと。偉大な記録に手が届こうとするときは、世の中は常に批判的なのだ。実際に猛烈なバッシングを浴びて病に陥り自殺した人もいる。その人の悲話はベーブ・ルースの年間60本塁打を打ち破った男。ヤンキースの永久欠番NO.9、ロジャー・マリスの悲劇であります。この話は実際に映画化されているので興味がある方は是非。ピート・ローズが来日した時イチロー少年はまだ5歳。きっとテレビでピート・ローズの打撃にかじりついていたことだろう。それが40年後には大きな物議を醸すことになろうとは思ってもみなかったに違いない。
日米野球で魅せるレッズのパフォーマンスはとても素晴らしいものだった。手抜きなしに17戦戦って14勝2敗1分けで、日本のチームはまるで歯が立たない。私がテレビで釘付けになったのは、トム・シーバーの威力のあるボール。打てないと判断した打者がセーフティバントを三塁側に転がすとトム・シーバーは三塁側に走りボールに飛びつこうとしたが勢い余ってすってんころりん。アハハとテレビ見て笑ったが、何の何のシーバーは転んだ体勢から素手でボールを取るや否や1塁へ矢のような送球でアウトにしてしまった。これを見て驚いた。手首の力が日本人とはけた違いに優れていて、寝転がった体勢からのスナッピングスローは我々の予想を遥かに上回るパフォーマンスだった。
この選手たちは並大抵の実力ではない。
本物だ!
そろそろ話を日本に戻そう。
日本のプロ野球が詰まんなくなったといわれて久しいです。かつては夜の7時にはどこのお家でもテレビには野球中継が流れていたし、ラジオでも 野球解説がどこかしこで聞こえていたというのが古きよき日本の夏でした。ウルトラセブンの最終回でも、アンヌがポインターで駆けつける直前にラジオから野球中継が聞こえていました。いつの間にか野球中継は廃れ、プロ野球というイベントでさえもあまり関心をもたれていない今日この頃。むしろ高校野球の甲子園大会の方が注目を浴びるというのは如何なものかと憂えるばかりです。野球に限らずギャンブルでもスポーツでも勝負事というのは何分にも緩急をつけるってことが大事だと思います。調子に乗ればマニー・ラミレスみたいな爆裂っぷりを発揮すれば良いし、調子が悪いときはおとなしくじっと我慢であります。日本のプロ野球界で緩急をつけた打者は結構いるんですけど、その中でも特に印象に残っているのが加藤秀司と張本勲ですね。
打撃の神様⇒川上哲治
打撃の天才⇒加藤秀司
打撃の職人⇒張本勲
加藤秀司という打者は阪急黄金時代の3番バッターですね。1番に福本豊がいて、2番が大熊。3番加藤、4番長池が鎮座する打線。福本が 出て盗塁。大熊がバントで送るのでワンアウト3塁の場面が多く、犠牲フライの数が非常に多い打者でした。状況に応じてバットスイングの緩急を使い分けるクレバーな打撃姿勢。追い込まれるまではフルスイングで本塁打を量産するけれど、2ストライク取られると一転して変化球狙いでまっすぐにも対応できるようなコンタクトヒッターに変身。2ストライク取られるまでと、2ストライク取られてからの緩急の差は見事でした。追い込まれてからの打率は落合博満か加藤秀司かというほど高かったと思います。本塁打を量産できるし打率も高い。あわや三冠王というシーズンも何度かあったのですが、本塁打王争いでは悉く南海の野村克也に後塵を拝しました。
張本はずっとパ・リーグの英雄だったのですがプロ入り18年目に巨人に移籍します。長嶋が抜けた翌年は読売ジャイアンツは最下位に甘んじるんですけれど、原因はON砲の一角が欠けたから王が孤立してしまったんですね。王貞治は偉大なバッターですけど、打てるのが王ひとりになって大事な局面では悉く歩かされるようになってしまいました。3番、4番を確立するために長嶋はパ・リーグ最強打者の張本を電撃トレードで獲得したのでした。歳は既に36歳でしたが巨人ファンの期待以上に活躍。功打、強打に加えて俊足で内野安打も稼げるということで左の安打製造機は長嶋の穴を埋めるのに十分な働きでした。
移籍した年が打率.355
その翌年が打率.348
まあやっぱりパ・リーグで首位打者を7回取っても日の当たらない雑草のような扱いだった選手が、巨人に来ると発奮するんでしょうかね。36歳、37歳となったこの2年間の活躍は目覚しかったとです。そしてこの張本という選手も加藤と同様に緩急の差が素晴らしかった。本塁打を30本量産する力がありながら、セーフティバントの達人。セーフティバントの成功率は生涯で20/21だったらしいのですが、それよりも私が驚いたのは意図的な内野安打です。彼はバットコントロールの達人であると同時に、状況に応じてバットスイングの緩急を使い分けるクレバーな野球人。ノーアウト3塁とかワンアウト3塁の場面では、自分が凡退したら次の打者は王貞治なので、そうなると100%敬遠されます。ツーアウト3塁で王と真っ向勝負できるような投手はセ・リーグにはいませんでした。
この局面になるとどうなるかというと、まず相手の内野手が前進守備体形を取ります。サードがかなり前に寄って来ます。カウントがバッター・イン・ザ・ホールになると大抵日本のピッチャーは外角高めにまっすぐを投じて1球外すんですね。この球を張本は待ってましたとばかりに狙い打つんです。否、打つのではありません。バットに当てるだけです。否、バントでもありません。途中までは強振する感じですが、バットに当たった瞬間バットを止めるのです。そうするとテニスのロブのようなフラフラッと舞い上がった打球が、狙いすましたように三塁手の頭の上を飛び越えてポトリと落ちるのです。三塁オーバーの内野安打の完成です。
※Batter in the hole⇒打者が追い込まれること。ツーナッシング若しくは2ストライク1ボール
※Pitcher in the hole⇒投手が追い込まれること。ノースリー若しくはワンスリー。
このバッティングを初めてテレビで見たとき、私は腰抜かしましたね。こんなことをできる奴がいるのかと?
張本はこれを意図的にやっていました。当時の巨人ファンなら思いはひとつ。ワンアウト3塁で張本を迎えると、ここでヒットが出ない限りこの回は無得点なのです。それほどまでに王貞治に対する恐怖心はみんなが知っていたので、巨人ファンにしてみれば張本のこのような意図的な内野安打は有難かったですし、その精度の高さに驚いたのです。まさに職人芸。状況判断ができる彼の頭脳と卓越した打撃技術は、彼がセ・リーグに来たからテレビ観戦できるようになり世の中に知れ渡りました。このような芸当は後にも先にも彼以外にやった人間はいないと思うし、私は見たことがありません。際立った打撃技術で安打を量産した移籍1年目と2年目はどちらも途中までは首位打者争いの先頭に立っておりました。ところがですね、この当時の日本の野球界には悪しきしきたりがありまして彼の夢は叶わず。応援していた私も非常に辛い思いをしました。
読売巨人軍中心のセ・リーグ。テレビ中継は言うに及ばず観客動員数も巨人戦だけは満員御礼。従って巨人ビジターでの広島、大洋、ヤクルト、中日戦は滅多に雨で試合が流れない。特に酷かったのは広島市民球場で土砂降りんなっても試合を止めないんですね。この当時の記録を調べてもらえれば分かると思いますが、広島VS巨人戦の試合の中止率は極端に低いはずです。何故これが首位打者争いに関係するかというとと、試合の消化率が良いチームは打者のタイトル争いにに不利になるからです。優勝が決まると残りの試合は消化試合になりまして、どこのチームもエース級の投手を登板させず将来のプロスペクトを先発させる機会が増えます。二線級の投手相手にバカスカ安打を量産されても困るんですよ。しかも巨人が全日程を終えたときは中日とかヤクルトは残り10試合以上残っている状態。
早々に日程を終えてしまった巨人の選手が、首位打者を獲得するのは至難のワザでした。日本のプロ野球界は、色々な事情で巨人に不利な仕組みが色濃くあります。
張本が巨人に移籍した年は、途中まで彼が首位打者争いを独走中でしたが、彼は最後まで出場して若干打率を落として日程を終えました。打率2位だったのは中日の谷沢健一。巨人の日程が終わっても10試合以上残ってて、二線級のピッチャー相手に打ちまくり打率は急上昇。張本の打率を僅かに超えると彼は残り試合を全休したのです。後から戦うチームは一瞬でも超えりゃ良いんですから有利に決まってます。このときの谷沢も最後まで出場すれば打率降下を招いたかも知れないのに一瞬でも超えると後は全休ですから汚いやり方です。一般に首位打者というタイトル争いにはこういうことがあるので、試合の消化率を全チーム同じにしないと平等には評価できないんですけど、日本の野球界はこういうところがまるで駄目。雨で試合が流れるのはそのときの天候に左右されますが、月曜日を定休日にしないで、ここで調整したり、ダブルヘッダーを組んで試合の消化率を同じにするような工夫が求められます。張本は移籍1年目は最後に谷沢健一に抜かれて打率2位。2年目はヤクルトの若松勉に抜かれて打率2位。どちらも中日、ヤクルトが試合の消化率が悪かったので、消化試合になってから打率急上昇で追い越したら残り試合全休という手段で首位打者になりました。
谷沢健一がガッツポーズする姿が悔しかったですね。そんな汚い首位打者とって嬉しいのかと?優勝が決まった時点で最も打率の高い打者が首位打者ということでよかったと思います。日本のプロ野球が詰まんないと感じるようになったのはこの頃からです。
金儲け第一主義なのですよ。プロ野球運営の在り方については、野球ファンを楽しませるという事よりも、自前の球団採算性が最優先される。メジャーリーグの場合は日本より試合数が多くて年間162試合あるんですけど、30球団がほぼ同じ日に日程を終えます。同じ日に162試合が消化できるように日頃から調整をしてる。日曜日が雨で流れたら月曜日に試合を組み入れるしダブルヘッダーも辞さず。そのためメジャーリーグの1年間は選手にとって非常に過酷なスケジュールですが、これが公平性を期すためのこだわりというものです。こういうこだわりが日本とメジャーではまるで違う。だからメジャーリーグは面白いのです。試合の消化率がタイトル争いに及ぼす影響は首位打者だけではありませんでした。松井が巨人にいた頃、ライバルの山崎はナゴヤ球場でバッカスカ本塁打を量産しましたが、この球場もまた雨で試合が流れることが多かったので、松井が全日程を終えたあと山崎は二線級のピッチャー相手に余裕で本塁打を量産し松井の数字を逆転。またある年はヤクルトのペッタジーニがこれまた狭い神宮球場で本塁打を量産しましたが、雨で試合が流れることが多かったので優勝が決まった後の二線級投手を相手に本塁打を量産し松井の数字を逆転していきました。巨人の選手は試合の消化率がすこぶる良いので早々に全日程を終了してしまうけど、中日とかヤクルトはその時点で10試合以上も残ってるんですね。
日本のプロ野球が金儲け一辺倒なので駄目になったというのはまだ他にもあります。ドーム球場と人口芝ですね。屋根付きにすると雨が入らないから人口芝にせざるを得ないのですがこれが実に面白くない。人口芝はイレギュラーバウンドを生まないからエラーは起きにくい。外野手が走りこんで打球を追うときに、ブレーキがかかりすぎるので選手はヒザに大きな負担を抱えることになる。これが嫌で松井秀喜は東京ドームから離れました。ヤンキースタジアムは天然芝のグラウンドです。屋根が付いた状態で試合を行うと、空調設備が整ってるから暑がりの人には好都合だけど、自分にとってはやっぱり吹き抜けの開放感がないからつまらない。風の恩恵を感じないのはかなり辛いです。夜風を浴びながらのビール観戦が至福でした。打球が風の影響を受けないってのもドラマチックな野球の面白さを奪いました。追い風で外野フライが本塁打になってしまう打球とか向かい風で本塁打が外野フライになってしまうというのは野球本来が持っているドラマです。元々は観戦客の為と思って作った屋根付き球場は、雨が多い日本の夏に予定通りに試合を行う為の知恵。人気カードのチケットは容易に手に入らず、わざわざ遠方から観戦に来た人が雨で試合が流れてガックシというのを防ぐのに一役買いましたが、そのために野球本来の魅力を損なってるのではないかという議論はこれからも必要でしょう。然しながら、それが遠方者の為というよりは、どちらかというと興行を行うにあたっての儲け重視という主催者側の利益が優先されている気がしてなりません。雨で流せば消化試合に回されて客が来ないから大損だという考えの方が支配的なのです。
松井のNYY移籍を契機として私自身の関心は徐々に日本からメジャーに移っていきました。
不公平な日本の野球は詰まらない。
これからはメジャーリーグに目を向けよう。
松井のNYY移籍の2年前にイチローがメジャーに電撃移籍して世間の注目を浴びました。メジャーに入る前の下馬評では小柄なイチローがどこまでやれるのかといった懐疑的なロジックが多かったですが、野球の専門家たちの意見では皆共通して「日本よりもやれる」でした。何故ならば日本のダイヤモンドは土で構成されてるのに、メジャーリーグのそれは天然芝だからです。天然芝に転がった打球は、勢いが殺されるためにイチローのような足の速い選手にとっては内野安打が圧倒的に増えるだろう。実際にイチローの日本時代の内野安打数は25本程度でしたが、メジャーに移ると毎年50本以上の内野安打を稼ぐようになりました。
イチローの外野安打率は0.246しかない。
言い換えるとジャストミートできたのは0.246しかない。
年平均で50本のペースで内野安打を稼いでいますが、内野安打÷打数で計算すると0.076であり、この数字はメジャーリーグ平均値の約2倍となっております。つまりメージャリーグの平均値では0.038程度ってことですね。この数字が何を意味するかというと、内野安打を除いた打率を私は独自の分析で外野安打率と呼んでいるんですがこれが0.246しかないってことです。つまり2割5分にも満たないバッターだということですね。ボテボテのゴロヒットで打率を稼いできたけれど、ジャストミートした打撃はあんまり多くなかったということになります。この手の話をすると、ファンは激怒するし、イチローは内野安打を狙って量産することができるほどのバットコントロールの持ち主だ。だから内野安打の数は問題じゃないと仰います。然しながらピッチャーが150kmのスピードで投げた球を打者も150kmの速度で強振する世界に、果たしてそんな芸当まがいのことがやれるでしょうか?バットを止めた打球なら狙った位置にボールを飛ばすことが可能でしょうけど、振ってしまったらまず無理でしょう。左バッターにとって安打を狙い安いのはショートの頭の上かセカンドの頭の上。真ん中から外寄りの真っすぐはショートの上を狙いやすいし、真ん中から外寄りの低めに落ちる変化球はセカンドの上を狙いやすい。ヒットを狙っていくならそこでしょう。間違っても最初から内野安打を狙っていくスイングなど有り得ないと思います。この手のお話をするのは大抵は野球経験がない人で、経験者はそんなことは不可能ってことすぐにわかります。
万が一内野安打を狙って打てるほど、バットコントロールが良いのであれば
ジャストミート率が0.246ってことはないと思います。もっと高いでしょう。
ジャストミートできていないから、ボテゴロが多くなるしそれを走力でカバーしてきた。つまり彼がメジャーで記録した内野安打の597本は、バッティング技術とかバットコントロールなんかじゃない。全て走力によるものです。
数字を分析しててもうひとつ気になることがありました。お次は張本勲の東映、日拓、日ハム時代の成績をじっくりご覧ください。
偶然なんですけど、打数、安打数はイチローと酷似していますし打率に関してはどちらもピッタシ0.322です。この中で自分で選んだ四球が張本とイチローでは劇的に異なることに違和感を感じました。張本は10.1打席に1個の四球を選んでいるのに対して、イチローは24.9打席に1個しか選べていないってことが異常だと思いました。イチローは1番、張本は3番という打順の違いもある程度は考慮せねばなりませんが、それにしたって差が大きすぎます。しかもトップバッターであれば出塁率が求められますから、安打よりも四球を選ぶことの方が大切なのにイチローはフォアボールを意図的に選んでいなかったと思われるほど少ないですね。想像でしかありませんが、イチローは最多安打と200安打を狙いすぎるあまり、カウントがピッチャーイン・ザ・ホールになると、難しいボールに手を出して打ちに行っていたのではないでしょうか?見送ればフォアボールになるところを手を出してヒットにする。これがどういう意味かというと
野球では評価されない打撃姿勢なんです。
ワンスリーからのボール球を見送れば確実に1塁へ歩けるけれど、手を出せばイチローの場合6割7分8厘の割合で凡打になってしまうからです。振れば6割8分はアウトで、振らなければ100%出塁できる。このようなケースでは手を出してヒットを放つよりも打たずに1塁に歩いた方が評価は高くなります。野球は組織でプレイするスポーツなのです。多分イチローは足し算のロジックしかしない選手なので、最終的な200という数字にこだわり続けたのでしょう。200と199では天と地ほどの差があるということで足し算に拘ったのでしょうけど、私から見れば199安打でも全然構わないし、最終打席で199安打だったとしても、フォアボールを選べるボールが来たら躊躇なくフォアボールを選んで欲しいですね。そこに野球観の違いがあると思われますが、状況に応じて最もチームに貢献できる確率の高い選択をするというのが本当のプロではないでしょうか?
プロの打撃とは少し異なる世界観があったと言わざるを得ません。
昔から安打製造機は左バッターの専売特許みたいに言われるのですが、これは左打席と右打席の位置の違いによるもの。左打者の方が1塁ベースに近い位置にいるし、引っ張った時に左打者は一塁側に体が寄ってくのに対して、右打者は引っ張ると三塁側に体が寄っていくので打席から出発する時点でかなりのビハインドがあるのが右打者。だから右打者の方が内野安打の数が少ないので、同じ打撃技術でも右より左の方が打率がかなり高くなるというのが事の真相です。右バッターの2割8分は左バッターの3割くらいに相当しますね。それくらい違います。
従って安打製造機の話をする場合は、左バッターだけでなく必ず右バッターとの比較もすべきだと考えます。しかも同じ時期に活躍した左と右を比べるのがよろしいでしょう。同じ時期なら同じ投手と対戦するし、同じ環境でプレイすることになるからです。イチローと同時期に時代を彩った1人のスーパースターが存在します。右で高打率を残したバッターはということで色々頭の中を張り巡らすとこの人しか思いつきませんでした。
ノーマ・ガルシアパーラです。
ヤンキースのジーターとボストンのガルシアパーラは共にショートストップで1番バッター。この時代の英雄的存在です。イチローとガルシアパーラはどちらも1973年生まれの同い年。活躍した時期は多少ずれるもののイチローと打撃成績を比較するならこの人でしょう。ガルシアパーラは怪我をしたのちボストンともめてチームを離れますが、ブレークしたのはほぼボストン時代なのでこの時期の成績を比較対象としましたが、驚いたことに彼の打率もまた0.322ということで、イチロー、張本、ガルシアパーラは共に0.322でした。数字を分析するとフォアボール率は15.3打席に1個ということでちょうどイチローと張本の中間。然しながら本塁打率は25打数に1本ということでこれはほぼ松井秀喜と同じ数字。打率はイチローと同じで、ホームランが松井と同じですからこの男は強打と巧打を兼ね備えた良いバッターですね。
打率はイチローとおんなじ
本塁打は松井とおんなじ
素晴らしい打撃成績ですね。ガルシアパーラの内野安打の数は調べることができなかったのですが、メジャーリーグの平均値が打数×0.038なのでこの数字をガルシアの成績に当てはめて計算してみます。ガルシアパーラもトップバッターなのでかなりの俊足だったと思いますが、何せ右バッターですからイチローよりは遥かに数が少ないはずです。
ガルシアパーラの内野安打の数が、メジャーリーグの平均値であったと仮定して数字を補正しました。そうするとガルシアパーラのジャストミート率は0.284ということでイチローの0.246を遥かに上回る高い数字になっております。
イチローのジャストミート率⇒0.246
ガルシアのジャストミート率⇒0.284
シアトル時代イチローの打率は0.322(左バッター)
日ハム時代張本の打率は0.322(左バッター)
BOS時代ガルシアの打率は0.322(右バッター)
この3人はいずれも打率0.322の成績を残しました。然しながら誰が最も打撃成績がすぐれているかと言えば、右打者でありながらイチローや張本と同じ打率を残したガルシアパーラですね。数字はこうした補正をしていかないと本当の力は見えてこないと思うし、それに目を背けるのはアナリストの適性を欠いてると思います。イチローファンはこうしたロジックを嫌うし、此度のお話も大ブーイングだと思いますが、私はそんなことはどうでも良くってただ単に数字を冷徹に分析しているだけ。数字に向き合うってことはこういうことだと思います。但し日本にいた頃のイチローはもっとジャストミート率が高かったので、マリナーズ時代だけの成績を分析したのでは不公平なのかもしれません。日本にいた頃のジャストミート率は大体0.280~0.290を記録していましたからイチローほどの選手でも、やはりメジャーのピッチャーの球威と球速はとても厄介な代物だったのでしょう。ここで私が何を書いても彼が残した偉大な記録と名誉にはなんら影響を及ぼさないし、恐らくは私の知らないところで彼独自の努力と研究があっての賜物だと思うし、状況によってスイングを変えてたのかもしれません。彼が割り算のロジックを捨てて足し算のロジックに向かったのは、日本のマスコミによる過大評価が原因。イチローなら打率4割を目指せるんじゃないかということで、連日連夜打率の上げ下げを大げさに取り上げるマスコミ報道に対し、悩んでいた彼にアドバイスをしたのが足し算のロジック。乱高下する打率に一喜一憂するのではなく、日々の打撃向上に取り組むためには「安打」を1本1本積みあげることで1年間の最終的な数字が200を超える。減ることに対する意識の緩和が200安打という目標につながっていったのであります。私のような人間にはとても想像できないほどの創意と工夫と才能があったと思っておりますが、こうした数字に表れない部分は何分にもご本人にしか分からぬことなのでそのような配慮を一切せずに数字だけを分析しております。因みに張本勲はパ・リーグ在籍期間中の打率は0.322ですが、セ・リーグにきてラスト3年間で打率を落とし、最終的には0.319という生涯打率でした。ここで5000打数を超えた日本人安打製造機の比較をすると次のようになっています。
(1)張本勲0.319(左バッター)
(2)若松勉0.319(左バッター)
(3)落合博満0.311(右バッター)
全員を調べたわけじゃないんですが、恐らくは右で最高の打率を残したのは落合博満だと思います。落合の場合は脚力はすこぶる駄目だったので殆ど内野安打は記録していないと思うし、毎年5本程度じゃないのかと推測。そうすると彼のジャストミート率は0.300近くにはなっただろうなということで日本が誇る最高の安打製造機は落合博満ですね。
私自身も、中学3年間は野球部員でした。毎日バッティング投手の生きた球を打ち込んできたからこそ今日のようなお話ができるものと思っています。野球経験のない人は数字を補正してものを見ることができませんし、内野安打を狙って打てるものなのか否かも判別できません。野球経験者の立場から言わしてもらうと、バッターってのは常に快打洗心を求めています。ピッチャーの投げるボールを如何にしてバットの真っ芯でとらえるかが最大の焦点で、これを実現するために日々の練習があるのです。誰もボテボテのゴロなんか狙いません。真っ芯でとらえてなんぼの世界です。
万が一内野安打を狙って打てるとすれば…
冒頭にお話した張本勲の武勇伝。止めたバットで前に出てきた三塁手の後方にポトリと落ちる打法。3塁オーバーの内野安打しかないでしょう。150kmのスピードで来る球を狙ったところに運ぶなんてできる道理がないのです。
イチローファンの方からすると面白くない話であることは百も承知しております。然しながら私はファンでもアンチでもない。ただ単純に、数字を冷徹に分析した結果を書いただけのことです。野球人イチローとしてはスーパースターであることに異論はないし、走攻守及び強肩ということで長打力以外は全ての要素を兼ね備えた超一流選手という評価に変わりはありません。ただし走力を考慮しない打撃技術だけを見るならば2割5分のバッターです。
ただそれだけの事ですよ。恐らくイチロー選手がこの記事を読んだとすると大部分はそれは違うと否定するでしょうけど、部分的には受け入れるのではないでしょうか。松井やイチロークラスの選手になると我々が思っている以上に自分に対して過少評価をするし謙虚だと思う。日本人はイチロー選手を世界一のプレイヤーだとか世界最高の安打製造機だというけれど、このような評価が過大評価だってことは彼自身が一番良く分かってるというようなコメントを聞いた覚えがあります。数字に冷徹に向き合うってことはこういうことではないでしょうか。
快打洗心
長嶋茂雄が好きな言葉でした。
コメント
こんばんわ。
私のために貴重な時間を割いていただき感謝しています。
まともに打者イチローの実力について話せる人間が周りにいないものですから非常にうれしい。
イチロー選手の打力のみの評価はあなたが導き出したものと全く同意見です。付け足すことは何もありません。
左打者が右バッターよりも安打数・打率を残せるという優位性・彼の野球に対する姿勢についても全く同意見です。
彼はチームの勝利に貢献できていなかった。
1点差の9回裏2死ランナー3塁打者イチロー一打同点・HRで逆転サヨナラの場面で彼の選択はセーフティバント(バント失敗ゲームセット)
チームメートも球場のファンも望んでいたものはただ一つ
安打製造機?イチローの同点打。あわよくばサヨナラHR。
彼は1本のヒットのため(この状況でのバントは1塁セーフになる確率が高いですから)にチームとファンの期待を大きく裏切っています。(同じシーズンに同じことを2度もしています)
イチローのメジャー時代の10年連続200本安打に関してはファンの方には申し訳ないが大きく割り引かなければなりません。
年間200本安打は彼のように年間750打席もあったら2割8分~9分の選手が四球を選ばなければ達成できる数字。そもそもメジャーにおいて年間の安打数など取り立てて意味のあるものではない。イチローと取り巻きの日本メディアが作り上げた評価のかさましトリック。
毎年ほかのレギュラークラスのバッターより100打席以上も多く打席に立っているのだから200本という数字は決して難しいものではない(けがさえなければ)イチローは打席数の確保(ニンテンドーオーナーとの政治的確約)とけがを恐れた安全プレー(特に守備において球際のプレーをしない)に終始していました。
そして内野安打での数字かさましのため打撃フォームまで変えています。
きっちり軸を残して振り切ってから1塁に向かうのではなく、
当たった瞬間に1塁に走り出しやすいよう前のめり状態でバットを振るおかしなフォームになっていきました。(日本時代の振り子打法といわれていた時とは明らかに違います)これでは強い打球は打てません。得点圏の打率は3割超えても得点圏での打点は異常なまでに低い。つまり走者をかえせる安打(打球)を打てていないのです。
任せられる打順も1番のほかには8番9番あたりしかなく非常に打線に組み込みにくい。(それがメジャー時代の彼の実力)
もし彼が初年度からヤンキースのような常勝を義務付けられたチーム
に所属していたら間違いなく数字も残せず短命に終わっていたと思います。勝利ではなく数字に固執したメジャー時代の打者イチロー。
【イチロー5打数2安打(1内野安打)の活躍チームは12対3で敗退】
判を押したようにこんな見出しばかりのスポーツ紙やスポーツニュースを見て彼は何しに米国へ?と苦々しく思っていました。
ちなみに日本の強打者右は大杉勝男そしてわれらが長嶋茂雄もリストに入れてください。加藤秀司は私も好きなバッターでした。
もっと評価されてもいいと思います。
私の見てきた選手では右打者落合・左打者王がやはり最高にして最強です。
かなめ様
どういたしまして。
過大評価の点を指摘した形になってますが、イチロー選手の成績を冷徹に分析すると、私が下した評価以外には有り得ないと思いますね。
野球の素人はそういうところが分からないから、訳わからん理屈になる。野球を知ってる人ならばほぼ全員私と同じ評価を下すでしょう。
海を渡った時にボストンやニューヨークに行ってれば、守備以外では必要なかった戦力ではないでしょうか。シアトルならではの賜物です。
右の落合、左の王はその通り。王貞治のバッティングを超える人は今後も出ないでしょう。
イチローのメジャーリーグでの評価は納得できますよね。
出塁率も低いし。彼の評価は守備と走塁と怪我が少ないことかと思います。
が、日本でプレーしていた時はどうなんでしょうか?
OPSも出塁率も日本時代の方が全然高いし、内野安打数も少ない。
日本でずっとプレーしていたら違う評価だったのでしょうか?
ただの隣人様
日本にずっといれば神がかり的な数字で終っていたと思います。NPB時代のイチロー選手にも注目していて、当時は毎年ジャストミート率が2割8分~2割9分くらいは稼いでいましたから、日本のピッチャーに対しては対応できていたんです。メジャーに行ってから打撃評価は急低下。それほどまでにメジャーの投手の球威は半端ないということでしょう。非力なイチロー選手のバットスイングではメジャーの球威に対応するのは無理でした。
それでも彼が海を渡ったのは価値があったと思いますし、日本にとどまらずメジャーに行って良かったと思ってます。日本のスピードスターがアメリカでここまでやるとは向こうは誰も思ってなかったし、彼はスピードだけではなく背面キャッチとレーザービームでアメリカの野球ファンを沸かせました。
守備と走塁で本場アメリカ人の心を掴んだのは素晴らしいことだし、日本人野球のレベルの高さを見せつけることができたので、私としては彼のパフォーマンスには満足しております。
ただ
日本人の多くの人が、彼の打撃技術、打撃成績まで過大評価するものですからそれは違うだろって思っていたのは事実です。